「台風クラブ」

相米慎二の代表作

台風クラブ [DVD]

1985年作品 監督…相米慎二 主演…工藤夕貴大西結花、会沢朋子、天童龍子、渕崎ゆり子


中学時代の思い出は、と言われればそうだなあ、台風の日に校舎に閉じ込められて、一晩校舎で過ごしたことかなあ。それは映画の話だろ、と。その通り。「台風クラブ」の中の話である。しかし、自分にとっては現実の思い出と同じくらい、あの映画の中の出来事がリアルなのだ。よっぽど暗い学生時代を過ごしたんだな、と言われればその通りなので否定は…しない。しかし、あの映画を見ている時、たしかに自分もあの場所にいたのだ。一緒に雨の中で踊ったのだ。
今ギャルゲーとかアニメとかに出てくる女の子に夢中になっている若い人を見れば、皆様の大半は顔をしかめるだろう。気持ち悪いと。もっと縮めてキモいと。しかし俺にはその気持ちが何となく分かる。理解者ぶるつもりはないが、俺も映画の中に出てくる女の子を好きになったことは何度もあるし、どうして俺がいるのはこっちの世界で、映画の中じゃないんだろうと若い頃はよく考えた。今の日本映画ファンにもそういうことってあるのだろうか?
野田昌宏氏(日本SF界の重鎮にしてテレビ製作会社の社長)は若い頃「スターウォーズ」の一作目を見て、夜ベッドに入る度「今頃ルークやレイア姫達は宇宙のどこを旅しているんだろう。どうして俺も連れて行ってくれないんだろう」と悔しさに涙をこぼしたそうである。本当に力がある時の芸術は、人に現実とフィクションの区別をつかなくさせるのだ。
もう一度訊く。今の日本映画に、映画と現実をごっちゃにさせるだけの力があるだろうか?日本映画から夢見る力(今風に言えば萌えだ)が失われた後、一体そこに何が残っただろう。熱い(暑苦しいとも言う)若い人達はみんな、ゲームやアニメやマンガの方に行ってしまった。一部のクールな若者達をのこして。クールな今の若い映画監督達はそんなこと考えたことも無いだろう。だが、現実とフィクションの区別がつかなくなるくらい映画に夢中になったことがなくて、どうして人を夢中にさせる映画が作れるのだろうか?(「別に映画に人を夢中にさせようなんて思ってませんよ」と言われれば、はあ、そうですかとしか言えないが…)
台風クラブ」。結構苦手な人も多いかもしれない。生々しすぎて気持ち悪いという話もよく聞く。しかし、少なくない数の人間にとって、映画ではなく、リアルなひと夏の思い出として記憶されているはずの作品だ。