「愛しのハーフ・ムーン」

jyougen22005-12-11

書店員、婚約者

1987年作品 監督…滝田洋二郎 主演…伊藤麻衣子堀江しのぶ

最近ケーブルテレビでやっていて初めて見たのだが、いや、これ傑作ですね。昔の映画ファンなら「コミック雑誌なんかいらない!」で、最近の映画ファンなら「陰陽師」でお馴染みの滝田洋二郎監督作品。いや、滝田洋二郎と言えばロマンポルノだろうという方もいらっしゃるかもしれませんが、ロマンポルノ時代の滝田作品は2、3本しか見たことないのでよく分かりません。とにかくこの作品、「木村家の人々」でヒットを飛ばす直前だけあって、演出に脂が乗り切っている。
DREAM PRICE 1000 伊藤麻衣子/見えない翼
原作は原田美枝子(多分あの女優の原田美枝子だと思う)。脚本はベテランの斉藤博。結婚を目前にして揺れる女心をモノローグを多用しながら描いている。原作が女性だけあってリアルな女心が描き出されているのかといえば当然そんなことは無く、あくまで男の目から見た都合のいい女心。浮気するのは男の方だけで、女は何だかんだ言ってそれを許してしまうという虫のいい話なのだが、所詮映画なんておとぎ話みたいなもんなんだから、これはこれでいいと思う。女性客が映画の主なターゲットになった現在では到底こんな映画考えられないが、映画館の闇の中に一時の休息を求めて男達が集っていたあの時代の記憶ということで。
まあ、ここから先、文章はいつも通りの展開になるわけだが、とにかく主演の伊藤麻衣子がかわいい。それに尽きる。演技も上手い。皮肉なもので、そんなにかわいくなく演技も下手なのに、たまたまいい映画に続けて主演したためにスターになる女優もいる一方、顔もよく演技も上手いのに作品に恵まれなかったため女優として正統な評価を受けられなかった伊藤麻衣子のような人もいる。ちなみに伊藤のデビュー作は「愛の陽炎」(呪いのワラ人形をテーマにした迷作。自分は見ていないが佳作という意見もある。ただ、あまり見たいと思えない映画であることは確かだ)。
それはさておき、伊藤がアイドル女優としてブレイクしなかったことが、この「愛しのハーフ・ムーン」のような艶笑コメディの傑作の誕生に繋がったとすれば悪いことばかりとは言えない。これもまた牧歌的な時代の記憶、今ではもうなくなってしまった微エロというか、ライトエロというか、見えそうで見えないギリギリのエロティシズムが非常に心地いいのだが、実はこのジャンル、俳優の演技が達者じゃないと面白くならない。
嫌味の無いハンサムをやらせれば右に出るものの無い石黒賢、最近自分の中で演技者として見直しつつある嶋大輔、そして演技なんだか地なんだか分からない絶妙の存在感を見せる堀江しのぶ(1988年に23歳で夭逝)と完璧なキャスティング。役者陣の名演と達者な演出があいまって、見ようによっては50年代の職人監督が撮った日本映画のようでもある。
伊藤麻衣子さん、今検索してみたら自分でサイトなんかも運営されていて、昔と変わらずお美しい。ただ、プロフィール等にこの作品のことが書かれていないところを見ると、色々複雑な思いもあるのかもしれない。ともあれ、この映画が日本映画界に存在していて本当に良かったと、私は思います。