「微熱少年」

60年代 スターになる女の子

1987年作品 監督…松本隆 出演…西山由美、広田恵子

さて、「萌え日本映画」をかわいい女の子が出てくる映画だとするならば、1992年以降だってあるじゃないかという方もいらっしゃるかもしれない。例えば1998年の映画「がんばっていきまっしょい」の田中麗奈はかわいかったよと。だがちょっとここで取り上げている映画達とは違う。例えばその磯村一路が1990年に撮った「あさってDANCE」と、以前このブログで取り上げた「四月怪談」「ふたり」を比べて頂きたい。同じ中嶋朋子主演でも何かが違う。早い話が冷めているのだ。淡々としていると言ってもいいかもしれない。「映画は好きだけど、映画の中と現実を混同したりしませんよ」と言わんばかりの。今あるアイドル映画はほとんどそうだ。あくまでクール。女の子も見るアイドル映画(いやむしろ女の子をターゲットにしたアイドル映画)。映画の中に入り込みすぎる監督達は皆いなくなった。もしくは肩身が狭そうに映画界の片隅に逼塞している。「いいインディアンは死んだインディアンだけ」という悲しい言葉が思い浮かぶ。おい、失礼だな。誰が死んだって?いつか魔法の国が何らかの形で蘇ることを俺は信じている。
えー、話は変わって、このブログを書くためにレンタルビデオ屋に行って80年代心をときめかせた青春映画達を探したのだが、びっくりするほど無い!店頭から消えている。おそらくそれらの大半はDVD化されないだろう。もちろん当時好きだった人達が心のビデオラックに永久保存しておけばいいとも言えるけれど、当時のことを知らない人達に少なくともそんな素晴らしい映画が存在しておいたということだけでもこのブログに書き記しておきたいと思う。
そんなわけで本日の映画は作詞家松本隆監督の「微熱少年」。傑作です。当時、劇場で見たわけではなくビデオで見たのだが、昨夜15年ぶりくらいに見直したらいろんな場面を覚えていて驚いた。スキー場でのパーティ。車の中での別れ。「もしあなたがミュージシャンになったら、今日のわたしのことを歌にして」というセリフ、俺の頭の中に15年以上あったんだなあ。ガールフレンドがスターへの道を歩み始め、どんどん二人の距離が離れていくという場面。このヒロイン・エリーを演じている西山由美は、カネボウ創立100周年記念ニューフェイスで出てきたそうで、たしかに歩いてたらすぐスカウトされそうなかわいさです(セリフがひどい棒読みですがそこがまた…)。もう一人のヒロイン広田恵子もいい(カネボウ水着ギャルから出てきた方なのかな?)。大人っぽい役のはずなのに時々幼い素顔がのぞくあたりが。
スタッフは結構豪華。脚本は筒井ともみ。ネガ編、南とめ(この時77歳!)。ホリプロ制作で、予算はかかっているらしく60年代の街角を再現した大きなセットを組んだりしている。しかし全体から受ける印象は自主映画。でも、そこがいいんだな。監督が本当にこの映画を作りたくて作った、自分の好きなものをつめこんで作ったことが分かる(そもそもこの映画ジョエル・マイヤーウィッツそっくりの海の画から始まる。くすぐったい)。自伝的物語ということもあるが、監督が映画の世界に完全に入り込んでいる。俺が好きなのはそういう映画だ。作り手が世界を愛して作った映画は、その全てが愛しい。出演者全てが愛しい。斉藤隆治斉藤由貴の弟)、C-C-B関口誠人(好演)、UP-BEATの広石武彦(懐かしい!現在はソロで活躍) 、風町に住む全ての人を好きになる。
ヒロインの西山由美は、この後しばらく見なかったので女優をやめたのかと思っていたら、数年後坂本順治「トカレフ」に西山由海という名前で復帰していた。その後もマイペースで女優活動を続けている様子。エリーのその後、という感じで微笑ましい。